(19) プランについて
建築地がないと、建物をつくることができません。その土地は、同じということがなく、住む人たちも、使う人たちも、同じということがありません。
その土地、住む人、使う人、にあわせた家やお店を考えること、が、建築においてのプランの基礎となります。
このプランを考える作業の大半は頭の中で行われ、その出力方法は、方眼紙とお気に入りのシャープペンシル。幾度と重ねた、暮らしかたの希望に対するヒアリングや面談、その土地の情報、風の吹き方、日照条件、いろいろな情報を整理しながら、構造的にも安定しているか、80年以上なんだかんだ愛して住んで使ってもらえるか、地域や町並み、ご近所さんにとっても負担のないものであるか、などなど、結構な時間をかけて考えます。
土地は個性があります。その個性の良いところを見つけて、建築を介して、伸ばしてあげることができます。変形地や高低差のある土地など、その持っている個性が強い場合は、丁寧によく考えてプランしてあげれば、その個性を大いに生かした、またとない家やお店をつくることができる可能性があります。
建築地が違い、住む人、使う人が違う。建物が全く同じプランということはやはり無いのでは? と思います。
このプランを考える作業なのですが(自分でいうのもなんですが)なかなか一朝一夕にはできないものです。どこかで習ったら直ぐにできるようになるものでもなく、実生活の体験や感情の経験も重ねる必要があります。
空間の大きさの把握、建築の知識や使う材料のこと、つくる職人さんのこと、その土地や地域のこと、自然の情報、実際の暮らしの移り変わり、子供の成長、家族が歳を重ねた時のこと、ペットのこと、などなど、実体験もないとやはり良いプランはできないと思います。
私自身、まだまだ人生の半分地点ですが、日々起こるさまざまな事柄を大切に書き留め、プランに反映、共有できればと思っています。
(20) 建築費の価値
私自身の価値観です。お金は何かに使われてこそ価値が生まれます。建築費を大きく分類すると、①「建築資材の材料費とその経費」②「職人さんの施工費とその経費」③「工務店やハウスメーカーの経費」の大きく3つに分類されます。
この3つ費用はやはり必要なもので、建築費用が高額にならないよう努力はするのですが、何かを無くしたり大幅に減らすことは不可能に近いものです。
私自身がこの中で一番に価値を見出すのは、①の「材料や素材」です。その材料や素材というのは、丈夫で、自然な素材で、カスタムも受け付けてくれる気楽なもの。豪華なものや多機能なものというわけではなく、長い間気に入って傍に置いておきたくなるような素材です。
石油由来の工業製品(ビニールやプラスチックやゴム)は現代の生活では必要不可欠なもので、毎日の生活でお世話になっております。建築材料で使用される「新建材」と呼ばれるものは、日本では戦後の高度成長期から主に開発されました。この石油由来の工業製品の利点(寸法安定性や製品の均一化)を活かして、さまざまな建材、床材、壁材、天井材、屋根材、外壁材、構造材など、新建材のすべてで、一般住宅や店舗を建てることもできてしまいます。施工する側(工務店やハウスメーカー、職人含め)も、安定した品質で、工期も早く、新築後10年程(一般的にいう保証期間)までは比較的クレームにならない素材とされています。
短工期で手離れの良い工事は、建築費のコストダウンに大きく繋がります。しかし、10年をこえて、20年、35年となると、その素材の耐久性の限界が訪れます。工業製品、自然素材含め、どんな素材も寿命はあるのですが、新建材の寿命はまだまだ短いものが多いよう思います。数年で廃番となってしまったり、それらを扱っての工法の変化により、数十年後の改修時期には同じ資材の調達が難しく、結果、あれもこれもと大規模な修繕をしないとその建物の存続が難しく、であったら建替えましょうか、となることが多いのではないのでしょうか。
これはこれで、建築や建材の消費活動が生まれ、新建材メーカーやそれを使って建てる建築屋さんにはありがたいこと。しかし、建替えという行為は、付随する解体工事費、産業廃棄物の問題など、課題はいろいろ残ります。
一方、自然素材は、材料そのものの費用が高額と感じるものは、実は少ないです。
これを扱っての職人施工費の人工(ニンク)が掛かることが多いのです。
新建材を使った建築の①と②、自然素材を使った建築の①と②、では、現代の日本での建築は後者のほうが高額になることが多いです。
現場で人が柱を建てたり、1枚1枚板を貼ったり、1個ずつ石を積んだり並べたり。このような作業が高額になる要因ですが、実はこのコツコツした作業が、数十年後も、部分的な補修を可能にします。自然素材なので品番はありません。同じようなものが難なく入手できるでしょう。補修で使った自然素材は、数年の経年変化があれば、新しいものも古くからあるものも同化して馴染んでいきます。
長く住める家には、「記憶」も積み重ねていけます。
建築にかかる費用、お金。その価値を何にどう見出すか。一番わかりやすいものが、やはり「素材や材料」ではないでしょうか。
(21) かっこいい建物
ありがたいお言葉なのですが、「イシハラスタイルのつくる建物ってかっこいいですね」といっていただくことがときにあります。ありがとうございます、とうれしい反面、かっこよくつくることを一番には考えてないので、そのお褒めのお言葉に内心では戸惑うことがあります。かっこいい建物ってなんなんだろう、と少し考えてみたのですが、これは人間に例えるとわかりやすい気がしました。
たとえば元TOKIOの長瀬智也さん。かってはアイドルグループメンバーとして活躍し、現在はフリーで活動。ご自身の好きなバイクや釣り、ご自身のできることや才能を活かして生き生きと活動されているようです。メディアでしか拝見したことはないですが、目鼻立ちが整い高身長でスタイルよい外見、年齢とともに醸し出す雰囲気もあり、ご自身らしいライフスタイルもかっこいいなと思います。
これをわたしたちのする建築にあてはめてみます(多少無理があったらご笑覧ください)。
まずは、建物の立面、窓の位置や取り付くものの位置を整えながら、全体のボリュームをスタイルよく計画(整ったお顔と高身長でスタイルよい外見)。
つぎに、時間とともに味わい深くなる素材を選定します。傷や記憶を刻んでいくような素材です(年齢とともに醸し出す雰囲気)。
そのような建物をきちんとつくりお引渡し、住まい手さんがその方らしく使い込んでいってもらう(ご自身らしいライフスタイル)。こうあてはめると、なんだか無理なくできてしまうような気がします。そしてそれは大きな費用もかからず。
若いうちはかっこよかった、にとどまらず、素性のよいスタイルで、時を経て使い込んでいくほどに雰囲気がよくなっていく建物が、 ほんとうにかっこいい建物といえるのではないでしょうか。